虫歯の治療を受けるのは、憂うつですよね? ドリルの音を聞くだけで鳥肌が立つ…という人は、ひょっとしたら歯科恐怖症かもしれません。そんな恐怖心の強いかたに向けた「笑気麻酔」という麻酔方法があるのをご存じでしょうか。
こちらの記事では、恐怖を抑えて治療ができる鎮静法である「笑気麻酔」に関して解説しています。少しでも不安を抑えて治療を受けたい…という人は、ぜひ、笑気麻酔に対応してくれる歯科医院を探してみてください!
この記事の目次
1.笑気麻酔のメリット~不安を抑えた治療のために!~
笑気麻酔は、正式名称を「笑気吸入鎮静法」といいます。普通の麻酔とは異なり、「精神鎮静法」と呼ばれる処置です。広い意味で「麻酔」と表現するときは、次の3通りが考えられます。
◆局所麻酔
身体の一部を麻痺させる麻酔です。歯科治療では、歯の根元あたりに注射する「浸潤麻酔」がよくおこなわれます。
◆全身麻酔
意識を消失させる麻酔です。大規模な外科手術に使うイメージですが、歯科治療でも稀(まれ)に使用します。全身麻酔下では自発呼吸も止まるので、全身管理が必要です。
◆精神鎮静法
意識をぼんやりさせる麻酔です。自発呼吸もできますし、医師の指示に従うこともできます。「笑気麻酔」「静脈内鎮静法」の2種類が知られています。
それでは、歯科治療に「笑気麻酔」を使用するメリットを確認したいと思います。主なメリットは、以下の5項目です。いずれも、普通の局所麻酔では得られない「作用」になります。
1-1 メリット①:恐怖を感じにくくなる!
笑気麻酔で鎮静されていると、恐怖・不安を感じにくくなります。笑気麻酔が効いている間は「気持ちよく、うたた寝しているような感覚」「ふわふわと楽しい感覚」になります。ぼんやりしているうちに治療が終わるわけです。
1-2 メリット②:嘔吐反射が起こりにくくなる!
人によっては、口の中に器具を入れられると嘔吐反射が起こります。奥歯になるほど嘔吐反射が出やすくなりますが、中には少し器具が入っただけで嘔吐反射が起きる人もいます。当然、そのままでは歯科治療は困難です。
しかし、笑気麻酔をすると、嘔吐反射が起こりにくくなります。頭がぼんやりして、感覚がにぶくなるので、口の中に器具が入っても平気になるのです。
正式名称では、嘔吐反射のことを「異常絞扼反射(いじょうこうやくはんしゃ)」といいます。意味はまったく同じなので、「嘔吐反射=異常絞扼反射」という理解で構いません。
1-3 メリット③:注射針を刺す必要がない!
通常の局所麻酔は「痛みを抑えるための注射」です。しかし、注射自体の痛みをなくすことはできません。また、「治療が怖い」という患者さんにしてみれば、もはや注射そのものが恐怖の対象です。
笑気麻酔は「吸入する麻酔」なので、針を刺す必要がありません。鼻にマスクをして、「笑気ガス」を吸いこむだけです。「注射が怖い」という患者さんでも、抵抗なく麻酔を受けられます。
1-4 メリット④:治療時間が短く感じられる!
笑気麻酔には「健忘作用」があります。これは、鎮静下に置かれているときの出来事をあまり覚えていない…という作用です。治療時間に起きたことを忘れているので、実際より短く感じられます。
1-5 メリット⑤:一般の歯科医院でも実施可能!
笑気麻酔は、大がかりな設備を必要としない鎮静法です。歯科医院で用いるのは「低濃度笑気(笑気濃度30%以下)」なので、全身管理をする必要もありません。笑気麻酔の装置さえあれば、一般の歯科医院で実施可能です。
【ココがポイント】
笑気麻酔には5つのメリットがある!
◆恐怖を感じにくくなる
◆嘔吐反射を起こりにくくなる
◆注射器を使わない
◆治療時間が短く感じる
◆普通の歯医者さんでも対応可能
2.笑気麻酔の弱点~決して万能ではない…!
ここまで笑気麻酔のメリットを解説してきましたが、「笑気麻酔=万能の麻酔」というわけではありません。笑気麻酔には、いくつかの弱点も存在しています。こちらでは、代表的な弱点を2項目、紹介することにしましょう。
2-1 弱点①:笑気麻酔だけで十分な鎮痛作用は得られない!
笑気ガスを吸引するだけでは、十分な鎮痛作用が得られません。笑気麻酔にも鎮痛作用はありますが、苦痛を与えずに「抜歯」「抜髄(神経を抜く処置)」を実施するのは不可能です。治療にあたっては、局所麻酔を併用しなければなりません。
ただ、笑気麻酔で鎮静されていれば、局所麻酔を打つときの恐怖・痛みはほとんど感じないはずです。笑気ガスにも、注射の痛みをわからなくするくらいの鎮痛作用はあるからです。以上から、「笑気麻酔は局所麻酔との併用を前提とした補助的麻酔である」と判断することができます。
2-2 弱点②:笑気麻酔の作用には、個人差がある!
笑気麻酔は、万人に同じ作用をもたらすわけではありません。鎮静作用には、かなりの個人差があります。
歯科治療に対する恐怖がなくなる人もいる一方で、「恐怖心が少しも減らない」と訴える人もいるのです。歯科恐怖症の人にとっては、大きな問題だと思います。笑気麻酔を用いても、歯科治療が受けられない場合があるからです。
同じように、嘔吐反射が強い人の中にも、「笑気麻酔をおこなっても嘔吐反射が収まらない」という例があります。この場合も、やはり笑気麻酔下での歯科治療を実施することはできません。
ただし、「笑気麻酔ではダメだった」という人でも、歯科治療をあきらめる必要はありません。別の方法が存在するからです。点滴から鎮静剤を入れる「静脈内鎮静法」は、笑気麻酔よりも強い鎮静作用を発揮します。静脈内鎮静法を使えば、ほとんどの人がスムーズに歯科治療に入れます。
静脈内鎮静法でも不十分…という場合、全身麻酔下での歯科治療を検討します。全身麻酔なら、恐怖も感じませんし、嘔吐反射も起こりません。どれほど強い恐怖・嘔吐反射があるとしても、歯科治療を受ける手段はちゃんと存在します。
【ココがポイント】
笑気麻酔には2つの弱点がある!
◆単独での鎮痛作用は不十分
◆作用に個人差があり、効かない人もいる
3.笑気麻酔にかかる費用はどれくらい?
笑気麻酔を検討するにあたって気になるのは、費用面だと思います。しかし、あまり心配はありません。笑気麻酔による鎮静は、保険適用になるからです。2017年9月現在の規定では、以下のようになっています。
内容 | 3割負担の費用 |
---|---|
吸入鎮静法(30分まで) | 210円程度 |
吸入鎮静法(30分を超過した場合、30分毎に) | +30円程度 |
笑気の薬価 | 2~3円程度/1ℓ |
酸素の価格 | 1円程度/1ℓ |
「笑気の薬価」のほかに「酸素の価格」が必要なのは、「笑気ガス=笑気+酸素の混合気体」だからです。「30%笑気ガス」なら、残りの70%は酸素になります。
たとえば、「30%笑気ガス」を20分にわたって使用した場合、「笑気60ℓ・酸素140ℓ」程度の使用量が予想されます。この場合、費用の概算は以下のとおりです。
内容 | 3割負担の費用 |
---|---|
吸入鎮静法(30分まで) | 210円程度 |
笑気の薬価(60ℓ) | 120~180円程度 |
酸素の価格(140ℓ) | 140円程度 |
合計の費用 | 470~530円程度 |
治療時間に比例して「笑気・酸素の使用量」も増えますが、一般的な歯科治療なら「500~1,000円程度」で笑気ガスを使用できるでしょう。「横向きに埋まった親知らずの抜歯」など、時間のかかる処置でも、(笑気麻酔の費用は)2,000円以内に収まる可能性が高いと思います。
【ココがポイント】
笑気麻酔には保険が適用される!
◆普通の歯科治療⇒治療費+500~1,000円程度
◆時間のかかる処置⇒治療費+2,000円程度
笑気麻酔の費用は、それほど高くない!
4.まとめ
笑気麻酔は、「歯科治療に対する恐怖心が強い人」「小さなお子さん」などが落ち着いて治療を受けるために役立ちます。保険適用となっており、通常の治療費+1,000円くらいで利用できるのも魅力です。もし、恐怖心・不安感から歯科治療をためらっているようなら、笑気麻酔に対応している歯医者さんを探してみるのも良いでしょう。
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