歯医者さんが怖い…!?歯科恐怖症を克服できる優しい治療法とは?

子供だけでなく、大人でも「歯医者さんが怖い」という人はたくさんいます。仮にも身体の一部をドリルで削られるのですから、恐怖を覚えるのは当然でしょう。ただ、中には「恐怖のあまり、歯科治療を受けられない」という人がいます。このような状況のことを「歯科恐怖症」といいます。

とはいえ、「患者さんの負担をできるだけ減らす歯科治療」を目指す考え方も多くなってきました。歯科恐怖症の患者さんでも快適に治療を受けられるように、さまざまな工夫をしている歯医者さんがたくさんあるのです。

こちらの記事では、歯科恐怖症でも治療を受けられる「歯医者さんの工夫」をまとめました。怖くないように工夫してくれる歯医者さんなら、きっと子供から大人まで、みんなが笑顔で治療を受けられるはずです。

この記事の目次

1.歯医者さんが怖い…!歯科恐怖症でも通える「怖くない治療」

歯科治療に対する恐怖心が強すぎると、「虫歯になっても歯科医院を受診できない状況」に追いこまれます。その結果、ようやく歯医者さんを受診するころには「口の中がボロボロ」というケースも珍しくありません。

歯医者さんの受診に踏み切れない患者さんが多いのは、「歯医者=怖いところ」というイメージによるところも大きいでしょう。昔は「あまり痛み・恐怖に配慮してくれない歯科医院」も多かったと思います。ただ、現在では状況が変わってきており、多くの歯医者さんが「痛み・恐怖の少ない治療」を提供するようになってきました。たとえば、次のような方法で、患者さんの恐怖を抑えています。

1-1 【軽度恐怖症】スモールステップ&丁寧なカウンセリング

「恐がりな子供」「軽度の歯科恐怖症」なら、特別な方法を使わなくても治療を受けられる可能性があります。「思っていたより怖くない」という経験を重ねることで、恐怖を克服できるケースがあるからです。具体的な方法は「スモールステップ」と「丁寧なカウンセリング」です。

治療に慣れる!スモールステップで成功体験

怖がっている子供の歯をいきなり削るような治療は、恐怖心を増幅させる原因になります。まず、できることから順番に実施して「大丈夫だった」「怖くなかった」という成功体験を積み重ねることが大切です。

最初は「ミラーを口に入れるだけ」とか「歯科衛生士に歯磨きしてもらうだけ」で構いません。診療台の上に座り、「怖くもないし、痛くもなかった」という経験を繰り返すことが大切なのです。小さなステップで、少しずつ慣らしていきます。

中には、これを繰り返すだけで歯科治療を受けられるレベルに達する人もいます。成功体験は、人間にとってそれくらい大きな意味があるのです。子供に対しては、特に有用性の高い方法と考えられており、小児歯科を得意とする歯医者さんの多くが「スモールステップの治療計画」を取り入れています。

治療内容を理解する!丁寧なカウンセリング

人間は「何が起きているのかわからない状況」に恐怖を感じます。たとえば、「暗闇の中で突然、物音がする状況」は怖いですが、音の正体が「猫が茂みに飛びこんだ音」だとわかれば怖くありません。何が起きているかわからないから怖いのです。

歯医者さんでも、同じことが言えます。何をされているのかわからないまま、ドリルの「キーン」という作動音が響きわたる状況だとしたら、恐怖を感じるのは当たり前です。「何のために、どのような治療をしているのか」がわからないままでは、安心して身をゆだねるなんて無理だと思います。

「何が起きているのかわからない恐怖」を軽減するためのカギは、丁寧なカウンセリングです。もちろん、「専門用語の羅列」「一方的な説明」では無意味でしょう。患者さんが理解できる形で説明してくれること…が必須条件です。

丁寧なわかりやすい言葉の説明に加えて、さらに患者さんの理解を助ける方法としては、「モニター・図面の活用」があげられます。レントゲン・口腔内写真をモニターに映せば、視覚的に状況を理解することができるでしょう。また、「アニメーションで治療説明するソフトウェア」なども存在しています。このような機器は、子供の恐怖心をやわらげるためにも役立ちます。

【ココがポイント】

軽度の歯科恐怖症・子供の治療には…

◆できることから少しずつ実施する!
◆目で見てわかるカウンセリング!

1-2 【中等度恐怖症】無痛治療&精神鎮静法

歯医者さんに対する恐怖心があまりに強いと、通常の治療は困難になります。たとえば、少しでも痛みが出たら、パニック状態に陥るかもしれません。あるいは、タービン(ドリル)の作動音に耐えがたい恐怖を感じる場合もあるでしょう。スムーズに治療をおこなうまでには、いくつものハードルが存在します。

痛みを抑える!いわゆる「無痛治療」で恐怖を低減

世間一般で「無痛治療」と呼ばれる治療法なら、治療中の痛みを抑えることができます。痛い思いをしなければ、歯科治療に対する恐怖心も薄れていくことでしょう。具体的には、次のような方法を「無痛治療」に分類しています。

表面麻酔

注射による麻酔をする前に、「塗る麻酔・貼る麻酔」で歯茎の感覚をにぶらせます。注射の痛みを緩和し、治療の恐怖を低減するわけです。塗る麻酔としては「有効成分:アミノ安息香酸エチル」、貼る麻酔としては「有効成分:リドカイン」などが知られています。

無針麻酔

補助的な麻酔としては、「無針麻酔(針のない麻酔)」も知られています。高圧力で麻酔液を吹きつけて、歯茎の内部に浸透させる方式です。基本的には補助麻酔ですが、子供の場合は無針麻酔だけで抜歯まで可能になることがあります。カートリッジ型針なし皮下注射用注射筒などの機器がよく使われています。

電動麻酔器

麻酔の注射をするとき、伝導麻酔を使うと痛みを抑えられます。手ぶれの影響がなく、ゆっくりと同じ圧力で麻酔液を注射できるからです。国内では3種類の電動麻酔器が普及しています。

33G―極細針

歯科用の注射針の中でとても細い規格は「33G」です。当然、針を刺すときの痛みは、注射針が細いほど軽減されます。33G注射針は直径0.26mmと細いので、「いつ刺したのかわからなかった」という人も多いようです。

5倍速コントラ

タービンの音・振動を苦手とする患者さんの場合、5倍速コントラを使うことで恐怖を低減できます。タービンは分速30万回転ほどの回転数なので、「キーン」という風切り音を止めようがありません。しかし、5倍速コントラは分速3万回転くらいで、耳障りな音がしません。回転数は少ないですが、トルクが強いので問題なく削ることができます。

レーザー治療器

エルビウムヤグレーザー(Er:YAGレーザー)という治療機器なら、ほとんど痛みなく歯を削ることができます。ドリルと違って、音・振動もありません。厚生労働省も、レーザー治療器を用いて歯を削ることを「う蝕歯無痛的窩洞形成(うしょくしむつうてきかどうけいせい)」と呼んでいます。公式に「無痛的」という表現が使われているので、「痛みがほとんどない」と信じて大丈夫でしょう。

1-3 恐怖を薄める!精神鎮静法で不安を払拭

本格的な歯科恐怖症を持っていると、「どれだけ配慮をしても歯科治療が困難」という状況に陥ります。「歯医者=怖い」という意識が強すぎれば、いくら工夫しても極度の緊張感に悩まされるはずです。しかし、その場合でも、対処法は存在します。患者さんの意識自体をにぶらせてしまえば良いのです。具体的には、次のような方法で意識をぼんやりさせることができます。

笑気吸入鎮静法

亜酸化窒素と酸素の混合気体を「笑気ガス」と呼びます。笑気ガスを吸いこむと、人は意識がぼんやりして、うたた寝しているような感覚になります。当然、意識がはっきりしていないので、恐怖・不安も薄まります。笑気ガスには鎮痛作用もあるので、笑気を吸入した状態で麻酔を注射すれば、(ほとんどの場合)注射の痛みには気づきません。恐怖・痛みをともにやわらげて、スムーズに治療することができます。

30%以下の笑気濃度で実施するぶんには、安全性の高い処置です。歯科治療における笑気吸入鎮静法は30%以下の濃度なので、特別な管理は必要ありません。吸入を停止すれば、すぐに普通の状態になります。以上から、笑気吸入の装置さえあれば、一般の歯医者さんでも実施可能です。

静脈内鎮静法(IVS)

笑気より、さらに強い鎮静作用が必要なら、「静脈内鎮静法」を適用します。腕の点滴から鎮静剤を入れて、意識をぼんやりさせる手法です。点滴の針を刺すのに恐怖を感じる場合は、「笑気吸入鎮静法で点滴を入れて、静脈内鎮静法を実施する」という二段構えをとります。鎮静作用が強いので、患者さんは治療中の出来事をほとんど覚えていません。

静脈内鎮静法をおこなえば、かなりの歯科恐怖症でもスムーズに治療を受けられます。ただ、使用する薬剤は全身麻酔と同じもの(分量は違いますが)なので、笑気ガスほど手軽には扱えません。鎮静中は生体管理モニターなどを使い、全身管理をする必要があります。とはいえ、完全に意識がなくなることはありませんし、治療後は30分~1時間ほど休むだけで動けるようになります。

【ココがポイント】

中等度の歯科恐怖症には…

◆痛みを抑えた「無痛治療」!
◆意識をぼんやりさせる精神鎮静法!

1-4 【重度恐怖症】全身麻酔&精神科との連携

重度の歯科恐怖症になると、静脈内鎮静法でも十分な鎮静作用が得られなくなります。鎮静下でも、恐怖から身体が動いてしまい、治療の安全性が確保できません。特に恐怖が強い場合は、「そもそも医療機関の玄関をくぐれない」という症例もあります。

歯科治療の実施を優先!全身麻酔下で治療

「口腔内の健康状態」「歯科恐怖症の程度」を総合的に考えて、「恐怖症の克服」よりも「今すぐに歯科治療をすること」が優先されるなら全身麻酔を検討します。意識を完全に消失させてしまえば、恐怖症の有無は問題になりません。全身麻酔下なら歯科恐怖症の症状が出ないので、問題なく治療を進めることが可能です。

恐怖症の克服!精神科との連携

歯医者さんに近づくだけでも怖い…という段階に入っているなら、精神科との連携が必要になります。実際、医師と会話しながら、自分の行動・精神状態を合理的に考えていく「認知行動療法」によって、恐怖症の改善が可能と考えられています。

投薬と認知行動療法を組み合わせることで、恐怖症の多くは緩和するようです。たとえば、対人恐怖症に「投薬+認知行動療法」をおこなった結果、86%の患者さんに改善が見られた…とする報告も存在しています。

ただ、歯科医恐怖症が完全に消失することは考えにくく、現実的な目標は「静脈内鎮静法を用いて歯科治療が受けられるようにすること」になるでしょう。しかし、それでも十分な改善だと思います。

参照URL①:https://www.jstage.jst.go.jp/article/dentalmedres/34/1/34_45/_pdf
参照URL②:http://mainichi.jp/articles/20160608/k00/00e/040/201000c

【ココがポイント】

重度の歯科恐怖症には…

◆全身麻酔下の歯科治療!
◆精神科で認知行動療法を実施!

2.怖くない歯医者さんの選び方

歯科恐怖症とまではいかなくても、「歯医者さんが怖い」と考える人はたくさんいます。そこで、こちらでは「怖くない、優しい歯医者さん」を選ぶためのポイントをお伝えすることにしました。

幸い、現在は多くの歯医者さんがwebサイトを持っていて、「どのような治療をおこなっているか」を公開しています。治療方針だけでなく、院内設備・治療器具などを紹介している例も珍しくありません。

せっかくなので、「歯医者さんのwebサイト」に書かれた情報から、痛み・恐怖が少ない治療をしてくれそうか見当をつけてみましょう。具体的には、以下のような設備・機器について記載されているようなら、「怖くない歯医者さん」である確率が上がります。

◆表面麻酔
◆無針麻酔
◆電動麻酔器
◆カートリッジウォーマー(麻酔液の保温器)
◆33G注射針
◆5倍速コントラ
◆エルビウムヤグレーザー(Er:YAGレーザー)
◆笑気吸入鎮静法
◆静脈内鎮静法
◆カウンセリングルーム
◆個室 / 半個室診療室
◆キッズスペース / 院内託児所

患者さんの「緊張」「痛み」「ストレス」を緩和するための設備に力を入れている歯医者さんは、「怖くない歯医者さん」である確率が高いです。必要最低限の設備だけでなく、「患者さんにリラックスしてもらうための設備」を導入しているなら、「少しでも快適な治療を提供したい」という経営方針を採用している…と判断できます。

3.まとめ

最近は、「快適な治療を提供すること」に力を入れる歯医者さんも増えてきました。幼少期のトラウマが影響して歯科治療を受けられずにいる人も、ぜひ、勇気を出して歯医者さんに行ってみましょう。

歯科治療に強い恐怖心を持っている場合でも、「精神鎮静法」を用いることでスムーズな治療を受けられることがあります。歯科恐怖症・歯科心身症の診療を得意としている歯医者さんを探せば、「怖くない治療方針」を考えてくれるはずです。

執筆者:歯科こえ 編集部

歯科こえでは、お口のトラブルをサポートする情報を掲載しています。読者の方々が抱える悩みや症状、その原因を解説し、治療方法なども記載しています。また、歯科こえコラムの全記事を歯科医師が監修しています。

監修医 貝塚浩二先生

コージ歯科

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貝塚 浩二先生